【なんでも深掘り】記憶術・記憶法について

気になることを深掘りしていきます。今回は記憶術についてです。今回は記憶術の「やり方」ではなく、その歴史と背景を深掘りします。
記憶術は一部の天才だけが使う特殊技法ではなく、古代から多くの人たちが実際に使ってきた実用的な技術です。
まずはその歴史を知ることで、記憶術の有用性・魅力を理解してもらえればと思います。

場所法・メモリーパレスとは…

メモリーパレス(記憶の宮殿)のそのイメージを現代の多くの人に知らせることになったのは、トマス・ハリスの連作「レッド・ドラゴン」「羊たちの沈黙」「ハンニバル」に登場するハンニバル・レクター博士の描写であろうと思います。
「羊たちの沈黙」の続編である「ハンニバル」において、天才的な頭脳を持つ殺人者ハンニバル・レクター博士は、記憶の中で千の部屋がある広大な宮殿を構築していました。そして、レクター博士は体を拘束されていても、頭の中でこの宮殿の中を自在に歩き回り、その小部屋の一つ一つを訪問することで過去のどんな記憶も呼び起こすことができ、さらに過去の記憶の中で生きることさえもできます。

このような膨大な記憶力はさすがにフィクションの産物とはいえ、「記憶の宮殿」とよばれる方法は中世の学者が実際に実践していた古い記憶術の一つです。本が貴重だった時代、学者はこうした記憶術を駆使して膨大な記憶を脳のなかに蓄えていたといいます。

この描写とハンニバル博士の天才ぶりに驚きや羨望を抱きこんなことができたらいいのに…と感じたかたも多かったのではないかと思います。



記憶の宮殿(メモリーパレス・マインドパレス)なんて本当に作れるのか…古代の歴史から

記憶の宮殿は場所法とも呼ばれます。その歴史は古いもので、場所法(Method of Loci)はギリシアのシモニデスが紀元前500年頃に考案したとされる記憶術ともされています。
熟知した場所や建物の物理的位置を思い浮かべ、そこに記憶すべき内容をイメージとして対応づけることで、一度の提示で長いリストをほぼ完全に記憶できます。
先行研究では40単語の直後再生率90%以上、1日後でも75%という高い成績が報告されており、性差やイメージ能力の個人差によらず普遍的に有効とされています。

また、古代ローマでも使用されていたため、古代ローマの修辞学に由来する記憶法ともいわれることがあり、その原理は二つの要素から成ります。
一つ目は「場所」で、建築空間など秩序ある空間を心の中に銘記し、記憶の構造的枠組みとして使います。二つ目は「イメージ」で、覚えたい内容を鮮烈で印象的な像に変換し、各「場所」に配置します。想起する際は心の中で場所を順番に巡り、イメージに出会うたびに内容を思い出すという仕組みです。
中世には特にドミニコ会の修道院で発展し、単なる暗記術にとどまらず、知識を動的に組み替え新たな創意を生む思考モデルとして活用されました。初期近代には百科全書的な知識の分類・体系化の道具としても重用されるようになります。

その1つの例が、デル・リッチョの『場所記憶術』(1595年)です。

記憶術の歴史の中から具体例

論文によればデル・リッチョの記憶術とは以下のようなものでした。
デル・リッチョは庭園・園芸・博物学に精通した修道士で、記憶術の解説書『場所記憶術』を1595年に執筆しています。同書は記憶術の規則を七則にまとめ、王と六人の家臣に見立てて説明するものです。
特筆すべき点として、彼は「博識になりたければ、王が豪勢な宮殿に多くの部屋を持つように、記憶用の場所を多数所有すべきだ」と述べており、王宮の部屋を「場所」に、そこに収められた事物を「イメージ」に見立てています。また、記憶イメージ作成のために河川・魚・宝石・花・鳥・都市・職業など膨大なテーマ別ABC順名詞リストを収録しており、博物学的・百科全書的な知への関心が見て取れます。
理想庭園「王の庭」と記憶術の関係
デル・リッチョは同じ1595年頃、『実験的農業論』において「王の庭」と題する理想庭園を構想しています。本論文の核心は、この庭園構想と『場所記憶術』の対応関係を空間的に分析した点にあります。
① 花の庭における植物検索システム
「花の庭」は200ブラッチャ(約117m)四方の正方形で、中央の園路で八分割され各区画にA〜Hのアルファベットが割り当てられています。さらに内部は楕円・六角・星型・ハート形など多様な形の小花壇に分割され、各花壇の脇には番号を刻んだ白大理石の標識が置かれます。庭園と同じ構成で編まれた「カタログ用の小冊子」を使い、どの花がどの区画の何番目にあるかを検索できる仕組みになっています。
これはまさに記憶術の実践そのもので、花壇を「場所」、花々を「イメージ」とし、場所に番号を付して序列化し、小冊子で検索するという構造が『場所記憶術』と完全に対応しています。さらに鉢植えにして移動可能な花も用意されており、これは記憶術における「一時記憶用の場(イメージを消して繰り返し使用)」と「永久記憶用の場」の区別にも対応していると論文は指摘します。
② 王の森のグロッタ(洞窟)と百科全書的知の表象
「王の森」は一マイル四方の敷地に十字の園路が走り、四区画それぞれに八つのグロッタ(洞窟)が設置され、全体で32個のグロッタが配されます。各グロッタには田園牧歌・鉱物界・四足獣・魚類・鳥類・ヘラクレス・愛の歴史・婚姻誌・武具類・服飾誌など、自然界から人間界にわたる百科全書的な主題が彫刻・壁画・自動機械によって表象されています。
聖アウグスティヌスは「記憶=洞窟」というメタファーを『告白』で展開しており、デル・リッチョもこの伝統を踏まえていたと考えられます。グロッタの内部は円柱・壁龕・壁面を備えた建築的な構造で、「場所」と「イメージ」の組み合わせという記憶術の空間原理を体現しています。また彼はグロッタを「部屋(stanza)」と呼んでおり、『場所記憶術』での「王宮の部屋」を記憶の場のメタファーとして使っていた記述と呼応しています。

個人的には…

古代ギリシャと古代ローマは密接につながるためその両方に存在していることは普通のことだと思います。むしろそれくらい活用されていたのだともいえるかもしれません。
私が読み聞いていたものとしては、紙が高級であった時代に自分自身でも知識を頭の中に所有しておかなければならなかったし、また知識を残し伝えていかなければならないという必要性があった。そこで記憶として残し伝えていくためにいろいろな方法論が存在しその中の有名な一つが記憶の宮殿であると。

実際に使用している人たちの中には、詳細な記憶の倉庫として使用している人もいれば呼び出したい記憶のトリガーを置いておくものとして使用している人もいました。
正解があるというよりそのようにいろいろな使い方ができる汎用性の高いものだというのが私の実感です。
「今日の買い物リスト」のようなものにも使えます。それは記憶が混同しないのであれば毎日上書きしていけばよいでしょう。
長く残しておきたい記憶にも使えます。その場合は何度もその場所を訪れることが必要ですが。

以上、簡単に記憶の宮殿についてその歴史をみてきました。これに興味をもたれた方はぜひ実際に使用してみてほしいと考えております。
軽い気持ちでいいと思います。少しでもそのようなことができれば無駄にはなりませんし、私個人的にはこのようなことを色々と試行錯誤していくことで頭の使い方自体がうまくなっていくものだと考えています。

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